基本英文700選 のバックアップ(No.3)


概要 Edit

  • 英文和訳や和文英訳対策に有用な知識が含まれる短い英文が700個、細心の注意を払いつつ、並べられている。

特徴 Edit

  • 1980年代、「『基本英文700選』を暗記すれば、わからない英文はなくなる」*2といった本である。
    • これを「英語例文集の古典的名著」と見るか「現代の入試問題の内容にそぐわない古臭い化石」と見るかは人によるところだろう。
  • 肯定的な声は以下の通り。
    • 700文もあるので基本的な構文パターンを網羅している。
    • 和田秀樹氏も初期には本書を推薦していた。*3
    • 駿台生であった田中康夫氏も本書を推薦していた。*4
    • 700選で学んだ者が、現在第一線で活躍する言語学者になったが、それでも尚改めてこの本を推薦しておられる方も事実存在する。
      • ただし、現在の駿台英語科でこれを生徒に推奨している講師は多くない。むしろ秋澤師や久山師などのように、非推奨としたり問題点を指摘している講師の方が目立つ。
  • 否定的な声は以下の通り。
    • 「英語の基本となる『型』をまとめている」とされるが、構文だけでなく単なる熟語・イディオムも少なからず載っており、本当に『型』がまとまっていると言えるのか謎である。
    • そもそもの問題として、例文の選定基準が一切不明である。
    • 例文で使われている少し難しい単語・熟語、及び、構文等の解説はほとんどない。
      • あくまで暗記用で、あの程度の単語、熟語、構文が難しいと思う受験生相手に書かれた参考書ではないという反論もある。
    • 初版発行が今から約50年前であり、載っているのも文語体ばかりであるため、現在の入試問題の対策には使いにくい。当然、現在の入試問題でよく見るような現代英語の表現もほとんどカバーされていない。
      • 19世紀頃の英文学や演劇などから採られた例文も少なくない。日本語を学ぶ外国人に文豪の著作を教えるようなものであり、現在の受験対策にはあまり実戦的ではない(そもそも出題されない)。
      • 秋澤秀司師も英語が古風すぎて実戦的でないと指摘している。
      • 「『700選』や『解釈教室』を、中身の批判はせずに「英文が古いんだよね」とフワッと批判したまふ御仁のことを私は心より軽蔑してさうらふ」(仲本浩喜師)という反論もある。
    • 「コロケーションを無視した不自然な表現以外にも、文法面・単語の意味面での誤りも多く、そもそも本書の英語を参考にしてはならない」との主張もある。*5
      • 実際、語法を明らかに間違えていると思われるものも散見される。
  • 駿台講師の間では積極的に薦める意見は少ない。
    • 前述のように秋澤秀司師も英語が古風すぎて実戦的でないと指摘している。
    • 基本的に伊藤師の代表著作は熱心に薦める久山道彦師ですら、本書については一切触れない。例文暗記の話をする際も存在しなかったかのような扱いである。
    • 関西でも、竹岡広信師を中心に、批判の声が目立つ。
  • ある高名な英作文参考書に付属した例文集の剽窃であると言われていた(剽窃された側の著者がコラムで暗に批判していた)。
    • 『和文英訳の修行』(文建書房)*6のパクリとも言われるが、両書とも出典が同じ『The New Art of English Composition』(泰文堂)だから英文がダブっているだけとの説もある。
    • 大学入試の文法問題には,the house whose roof is blue,seen from the sky, not knowing what to do など,多くの出題者が好んで使うフレーズがたくさんあります。出題者にしてみれば,それらは「作者不詳の民謡」のようなものかもしれません。(佐藤誠司氏Twitterより)
    • おそらく『700選』の『和文英訳の修業』と重複・類似している例文の多くはそうした「民謡」なのだと思います。ただ、例文のパクリを云々するのであればこうした例文についても可能な限りさかのぼって出典を探し、その旨を明記すべきであるということになります。(英語参考書マニアックスTwitterより)
  • 現在の駿台英語科講師の意見を踏まえてまとめると、数十年前ならともかく、現代の入試対策という面で見ればあまり有用ではないと言えよう。
    • どうしても読みたい人が参考程度に眺めるのがベターだと思われる。
    • 現在ではかつてと違って本書以外にも多くの例文集が存在するので、古い文体の例文が多い本書にこだわる必要性は薄い。
    • 本書が盛んに読まれた40〜50年前は、ラッセルなどの西洋哲学者の硬く文語的な文章が好んで入試に出されていた。しかし現在ではそのような硬派な問題文はほとんど出題されなくなっており、様々なジャンルから採られた評論文・小説・会話文など、現代の実用英語で書かれた長文を複数出題するのが主流である。このような現状にあっては、本書は出題傾向の時代変化・例文参考書の増加に伴い役目を終えたと見るべきであろう。
    • ネット上では英語教師でもなんでもないのに本書を推薦する(特に中高年層の)声が多いが、本書の英語は日本で言えば文豪の著作などに見られる一昔前の日本語に近く、現在の入試問題の出題傾向とはズレがある。また文法的ミスも多いため、入試対策にはあまりに遠回りである。
  • 上で見たように、本書は駿台講師の中でさえも賛否両論があり、また本書の内容は伊藤師の晩年以降に起こった入試問題の出題傾向の変化に追いついていないため、一概にオススメできる参考書とは言いがたい。
  • 2020年以後の英語対策においては、少なくともかつて言われていたような「『基本英文700選』を全て暗記すれば英語の基礎が全て身につく」ということはない。
    • 理由があってどうしてもこの本で英語を勉強したいという人は、本書を英文和訳の問題集として使ってみるのもアリかもしれない(下記参照)。
    • とはいえ、英語の基礎ができていない人が本書だけで英語学習を進めていくのは危険である。定評のある他の参考書などを利用して基礎をしっかりと固め、他にするべき勉強をした上で本書に取り組んでみるのが良い。
  • 山口紹師によると、晩年の伊藤師は本書のことを「棺桶に持っていきたい」と語ったとのこと。弱点は本人にも認識されていたらしい。
    • また、晩年には「安楽死させたい」とも。そもそもとして、この本は例文暗記ではなく、構文を教えるために作った本らしい。それなのに例文暗記として認識されてしまい、売れに売れたため駿台文庫が儲かり、やめさせようにもできなかった。
  • 伊藤師亡き後、高橋善昭師が主任をされていた頃は、英作文でなく英文和訳の副読本として推奨されていた。




*1 1997年5月26日産経新聞朝刊「受験のカリスマ」5
*2 朝日新聞、2013年11月13日
*3 『受験は要領』(ごま書房、1987年)
*4 『田中康夫の大学受験講座(POPEYE BOOKS)』(マガジンハウス、1988年)
*5 『どうして英語が使えない?―「学校英語」につける薬』(ちくま学芸文庫、1996年) など多数
*6 2020年9月10日に金子書房より復刊予定